フィンガースピンサービス

フィンガースピンサービス

 「スポーツ」は「規則」との密接な関係を持っている。卓球の場合、特に「サービス」は大きい。合法的な範囲で「イノベーション」しつつ、禁止されるものもある。


 フィンガースピンサービス(FSS)というのがあった。トスするときに指で強力なスピンをかけてラケットにあてる。米国が1937年の世界選手権団体戦で優勝したことがあるが、このFSSの使い手ソル・シフの功績だったという。
 

 FSSはもちろん当時のルールで合法。「直角に曲がる」と言われたほど猛烈な変化サービスで、まさに魔球だったのだろう。「卓球が手品になってしまう」ということで、即座に禁止された。
 

 荻村伊智朗・藤井基男『卓球物語―エピソードでつづる卓球の百年』(大修館書店、1996年)にこのへんの話はけっこう書いてあったはず。ところが今回、確認しようと思ったが、どこに行ってしまったか、探し出せなかった。残念。この本には、ある機会に余興で、シフ(おそらく、当時全米卓球協会会長)と、現役の高島規郎(カットマン)がFSS対決した・・・との記述があった。
 

 いったいどんなサービスであったのだろうか、と気になる。動画にあるかと探してみたが、とりあえず探せなかった。さらに少し検索してみると、次の記事が見つかった。卓球コラムニストの伊藤条太が、当の高島規郎ご本人に、呑みながら聞き取った話である(高島と伊藤の2ショット写真がそえられている)。
 あまりに面白くかつ貴重な話なので、ルール違反気味だが、そのまま以下引用する。

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「(前略)
昨夜は特に珠玉の話が聞けた。

それは、1975年のUSオープンで、アメリカのフィンガー・スピンサービスの名手、ソル・シフのサービスを受けた時の話だ。

オープニング・セレモニーかなにかで、会場の真ん中にコートを一台だけ出され、観客が取り囲んだ中でそれは行われた。荻村伊智朗に指名されて高島さんがそれを受ける羽目になった。ソル・シフのサーブ一球め、高島の手元でボールがグッと伸びてきた。高島、うわっと思ってかぶせると、ボールが台の上にのらず、台の下に落ちたという。観客は大笑い。次のボール、バック側に鋭く切れ込んで曲がってくる横回転、サイドミスしちゃいかんということでラケットを斜めにして当てると、逆の横でボールは真横に吹っ飛ぶ。どう見ても下回転なので突っつくと真上に上がる。こういった調子で、20球以上も連続でミスしたと言う(空振りは一球もなかった)。球種は10種類以上もあり、もうぶつけサーブどころの威力ではなったという。20球以上受けて、同じサーブが来るようになるとだんだん返せるようになり、最後は続けて返せるようになったという。ソル・シフが駆け寄り、「お前は凄い」と誉められたそうだ。どっちが凄いんだよ、おい。後で荻村伊智朗に怒られると思っているとやはり荻村にも「よくやった。たいしたものだ」と誉められたそうだ。ちなみに高島さんは当時、両面裏ソフト。

高島さんいわく、自分はカットマンだったから後半なんとかレシーブできたけど、攻撃マンでフリックしようなんて絶対無理という。

2年ほど前に、スウェーデンのある卓球スクールで、趣味でフィンガースピンサービスを操る若いコーチがいて、そこでまた皆の前で受けさせられるハメになったが、高島さんはソル・シフのときの球種を記憶していて、すべて返すことができたという。そのコーチも見ていた生徒達も驚きの声を上げ、それから皆の態度がすっかり変わったという。そこの若手達はそのコーチのフィガー・スピン・サービスをまったくレシーブできないのだそうだ(しかもそれを本気で練習に取り入れさせられているという)。

伝え聞いていた話と180度違う話だが、こちらの真実の方が卓球の深さを物語っていて数倍面白く、戦慄を覚えた。卓球の可能性は底知れないのだ。


(伊藤条太「またまた談合」「世界選手権広州大会(条太の広州ぶるるん日記)」速報・現地リポート、卓球王国WEB、2008/02/28発行、2016/06/10閲覧、http://world-tt.com/
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  「伝え聞いていた話と180度違う」とは、おそらく前出『卓球物語』の中で紹介されていることを指すのではないか。確か「高島は完璧にレシーブした」(それによりシフが不機嫌になった?)というように書いてあったような気がするので、私も上の話は「ずいぶん違う」という感じをうけた。
 

 FSSがどういうものかわからないので、今回はいろいろ推測してそれを内容とするつもりだったが、この記事を発見して、そんなことはいっきに吹っ飛んだ次第。

 伊藤条太は相当変なつまらないコラムも書くが、たいへん面白く鋭いものもかく。この記事は、特大満塁ホームランの類で拍手喝采。お礼に本を紹介しておこう。伊藤条太『卓球天国の扉』(卓球王国、2015年、1404円)が近著(2016/06/10)。

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